設立は1946年。米子を本拠に、LPガスのみならず、産業用・医療用ガス、液化天然ガス(LNG)の製造・販売、電気、ガス関連器材、空調機器の販売、ガス供給設備設計・施工、住宅リフォームなど、幅広い事業を手掛ける山陰の雄。
今や山陰地方だけではなく、東京、北関東、関西、北九州などにも進出。売上高200億円強、362名の社員を率いる並河元社長に、山陰酸素工業のこれからを中心にお話を伺った。
※以下、敬称略
取材日【2026年10月1日】

並河家の由来-本能寺の変で戻らずに土着した明智家の家臣
境 野:私は日本史で戦国時代が凄く好きで、明智光秀は善政を敷いた良い武将だと思っています。なぜこんなことを言っているか、読者の皆様にも解説させて頂きますと、それは並河(なびか)家が光秀の家臣だという話を以前から聞いておりまして、是非そこから始めさせて頂きたいと思います。
並 河:実はその裏取りをしっかりはやっていないんです。 ただ、並河家は織田信長と同じ「織田木瓜」の家紋なんですね。 そして、本能寺の変の直前まで明智光秀の本拠地であった亀岡に、並河(なみかわ)という地名が今でも残っています。
岐阜羽島にも並河という姓があります。出雲の並河は本能寺の変の100年後くらいに、そろそろ名を出してもいい頃かといことで初代が苗字を出したと、そういう状況証拠があるんですね。
境 野:本能寺の変の前に、いよいよ毛利家と全面対決しようという時に、秀吉が司令官として派遣され、明智もそれを手伝えと、そして光秀が行く前に、並河氏は先行して山陰地方に赴いていた。
並河:そうです、秀吉は山陽道、光秀は山陰道という分担で。そして本能寺の変が起きて帰れなくなった。そのまま土着して、私で19代目になります。
ひらがなの『さんいんさんそ』へ-人口減少下のビジネスモデルを発信していきたい
境 野:私の興味にお答え頂き、ありがとうございます。ところで社長は山陰酸素に入る前はコンサルティング会社におられたとか。
並 河:アビームコンサルティングに9年いました。そして、2013年に会社に入り、営業本部に配属となりました。ギリギリまで東京で仕事をしていまして、3月30日に引っ越して4月1日に出社ですよ。
机だけでパソコンすらありませんでした。大丈夫なのかと不安になりましたね(笑)。着任する前に、当時の東京支店長に山陰酸素のビジネスを聞きに行ったのですが、「まずはプラントを見に行きましょう」と言われました。
いやそんなのを見ても、と思ってしまって。今思えば行けば良かったと思いますが、当時はバリバリのコンサル頭で、まずはビジネスが知りたいと。何が競争の源泉で、お客さんは誰ですかとか、どういうビジョン、成長戦略は何ですか、というようなことを聞きたかったわけです。
ところが東京支店長が実務派、現場主義で、今思えば、目の前の現状を懸命に伝えようとしてくれていたんだと思います。

境 野:しかし、そのビジョンと実務の狭間の中で、「このままでは先細りするだけだ、何かを始めなければ」という気持ちが芽生えてきたんですよね。
並 河:はい。多角化も進めてきましたが、今はやはりガスを伸ばそうと言っています。ガスが当社の源泉ですし、社員もみんなガスがやりたいんです。
電気やら機材やら工事やらありますが、やはり大きな収益源、みんな好きなんですよね、ガスが。入社した13年前、ガスは絶対先細ると思っていて、だから機材と工事を伸ばそう、比率を上げようとやってきましたし、ある程度それは正解だろうとは思っています。
だからこそ今、枝となる多角化を太くしていくために、大元を大きくしていきたいと思っています。
境 野:人口減少というのは、新常態というかノーマルな状態として受け入れなきゃいけない、抵抗ができない状況で、それが山陰では加速化しています。 そんな中、人口減少下のビジネスモデルを自分たちで作り上げて山陰から発信していきたい、そんな社長の思いを強く感じています。
並 河:3年前に「幸せをめぐらせよう。」というグループビジョンを策定しました。まずは働く人が幸せであることを一番にして、自分たちが幸せなら、それをお客さんとか地域社会に還元できる、それをずっと巡らしていこうと。
お客さんも地域社会も幸せになれば、また更に自分たちの多幸感も上がる。2023年に策定して走ってきましたが、人的資本はすごく上がったと思うんですよ。
業績云々というよりは、支店長や管理職がいい感じに意見もしっかり言いますし、自分たちがやらなければという責任感が出てきたというのは、強く感じているところです。
一方、汎用性の高い言葉ですから、山陰酸素として何を目指すかというのが出来ておらず、去年の中計策定のタイミングで、各社のビジョンを作ろうと言いました。
山陰酸素はシンプルに言うと、もう「ひらがなの“さんいんさんそ”」になろうと。このエリアを前提にした山陰のガス屋ということが分からないような会社になりたいと。
境 野:山陰に山陰酸素ありと、業界では高い知名度を持っていると思います。
並 河:そうですね、業界のみならず、やはり全国から「ああ、山陰酸素さんね」と言われたい。山陰の酸素会社という認識ではなくて、もう記号と言いますか、よく分からないけど、「“さんいんさんそ”でしょ?」みたいな、ひらがなで表現されるような会社になりたい。
それを実現するには、もっとこのエリアで圧倒的ナンバーワン、器具販売にしても工事の信頼性にしても、そういう実績をここで作って全国に届けていくと。この3年間はそれをみんなが意識して頑張っていこう、と。
特に産業ガスは東京、九州、関西と拠点を持っている強みを活かしていけます。LPガスも当社らしさを含めた先行事例を作っていって、そのビジネスモデルを他のディーラーさん、他のエリアに買ってもらうみたいなことをやりたいと思っています。
強みと弱み-『ヤマサン会』の存在、そして力を入れたい自治体営業
境 野:その山陰酸素さんが今お持ちの独特の強みのひとつに、ヤマサン会の存在があると思っています。
以前講演させて頂いた際、今でも覚えていますのが、ヤマサン会は山陰酸素の目標値をそのまま鵜呑みにせず、自分たちで議論して、それ以上の機器販売の目標台数を作り上げ、必ずそれを達成すると。凄い販売店会だなと思いました。
並 河:もちろん強みであり、頼れる存在です。今は59社ですか、残念ながら減ってはきました。ただ、当社も一会員企業として、青年部などで一緒に企画等の議論をするという場所としては、凄くいいと思いますね。年に2回、2月と7月に総会をやっていますが、なんやかんやヤマサン会が好きなので、皆さんよく集まってくれまして、いつも大変盛り上がります(笑)。
境 野:見ていてそう思います。

並 河:強みとは逆に、我々が今弱いなと思っているのは、行政向けの営業です。もっと米子市とか各自治体向けの営業活動、あるいはロビー活動をやってもいいのではないか。
もちろん、協会には入っていますし、協会を通じて間接的には自分たちの意向は伝わっているかもしれませんが、企業としてやっていないというのは、もったいないと思っているところです。
境 野:やった方がいいですよね。ある会社はエネ庁に月一回ぐらいで通っていたり、情報を取ってきています。
最近の講演で言わせてもらっているのは、例えば災害協定は規模の大小に関わらずできるんです。お祭りでガスを提供してあげたり、何かあればウチから供給しますよと、自治体の発行紙に載せてもらうだけでも宣伝になります。
並 河:そういうのにもう少しリーチをしてもいいんじゃないかなとは思っています。自治体と組んで良い事はあっても悪いことはひとつもない。
補助金制度を働きかけたり、あるいは市の事業に協力したりと、知名度向上に役立つ部分もあると考えています。
先進的な取り組み-CVC(Corporate Venture Capital)
境 野:社長の全体戦略構想の中での具体策の一つだと思っていますが、 CVC(一般企業が、主にスタートアップ企業へ戦略的に投資する活動・組織・ファンド)です。
並 河:2023年の中計の時から始めています。その1年前に新規事業をやろうということで、地元の大学と組んで、その事業を大きくしようということで一緒にやったんです。
社内でそれに参加したい社員を公募したところ、今のCVC推進グループの中核となっている社員が手を挙げてくれたんですね。
その取り組み自体は残念ながら成就しませんでしたが、ベンチャーイズムというか、何か新規事業を立ち上げるということをやっていかないといけないね、という空気が生まれました。
それでCVCをやってみようと。私ももともとCVC事業に興味がありましたが、そういうようなことは、なかなか受け入れられないんだろうなと勝手に思っていました。しかしそんな中、現場から「やりたい」という声が上がってきたので、それは本当に良かったと思っています。
境 野:私もENEOSで新規事業、燃料電池や太陽光の立ち上げをやってきた中、色んな失敗も経験してきましたが、案件のうちで上手くいったものは何かありますか?
並 河:一号案件になるんですが、エネルギーの見える化をトータルパッケージで外販するというものです。
これは副次効果が大きくて、山陰酸素さんはガスだけじゃなくて、エネルギー全体の管理もできるんですね、と。

いわゆるコンサル的な提案で、それが本当にノウハウとして貯まれば、省エネ機器も合わせてウチから出していけるはずですから。その一号案件から派生して拡がりが見えてきました。
それと、保育園留学の会社に出資しました。東京など都会の人たちが都会で子育てするには、コンクリートの中でしなければならない。でもやはり子供たちには自然に触れさせたいという需要があります。
これも、保育園は公立が多いので、やはり行政に営業に行かなきゃいけない。僕らとしても、いろんな自治体さんと接点が作れたので、それがフックになって、体育館空調などに発展していきました。
境 野:大きいですね、成果として。
並 河:直近では愛媛の小学校の体育館空調と遮熱とか、災害対策と猛暑対策というのを一緒にやらせてもらっています。 ですので、ダイレクトにその案件の成果がというよりも、間接的にシナジーを出していて、周辺と話が進んでいくという感じですね。
冬の配送に欠かせない配送の人員を、夏にどう活用するか
境 野:それともう一つ、これはいい工夫だなと思って、他のガス会社さんにも共有したいことなのですが、LPガスの配送の閑散期である夏に配送人員を農薬散布へ活用する実証をしていると。
実は今各社さんが一番悩んでいるのは配送人員の活用です。その辺の話をお聞かせ願えますか。
並 河:正直、ウチが先行事例ではなく、組んでいるロボットベンチャーが深谷ネギの産地の埼玉の会社で、現地で実証を開始していたガス会社さんに聞きに行ったところ、ネギの農薬散布の省力化に繋がり、農家からの評価も高い事が分かりました。
こちらもネギは有名だし、当地では大山ブロッコリーなどもありますからニーズはあるはず、ということでやり始めました。
当社の配送委託先は協業組合なので、当社以外の組合員にこの事業を理解してもらうため、まずは山陰酸素でやってみて、これだけ収益になるということを検証しています。
プレステみたいなコントローラーで動かすのですが、これを自動運転させるのが次のステージ。今は人が近くにいてコントローラーで動かしています。
境 野:ユニークな取り組みですね。ロボットベンチャーとの組み合わせで色々な方向に拡散していきそうです。
並 河:冬に向けて配送は必要なので、絶対に人員は必要なんです。しかし、夏場の閑散期、特にシリンダーは稼働しません。バルクはそれなりに工場需要がありますが、シリンダーはどうしても家庭向けが多いから、なかなか稼働しない。
一方で冬場の需要期には人を抱えなければいけない。その人件費は結構大変ですから、ガス外収益というのは一つの大きなポイントだと。
境 野:なるほど、他にも面白い取り組みがあるとか。
並 河:道路損傷検知というのをやっていたんですよ。米子市に協力いただき、LPガスの配送をしながらドラレコみたいな感じで道路の損傷を検知するという実証試験をしていました。
動画を撮りながらAIが判断するという実証で、当社は米子中心に配送網を張り巡らせていますから、幹線道路以外のところ、県道、国道じゃない市道に結構行っているので、評価は良かった。
まだ正式採用とはなっていませんが、そういう配送の付加価値を上げる、配送員さんの給料を上げる、そういうことをしていかないと人も集まらない。
大事なのは人。社員が自発的に作っていく会社にしていきたい
境 野:そうですね。まさにこの前、日ノ丸産業の小山社長と話していた折に、やっぱりリフォームもできてガスもできて、 両方できないとダメなんですということで、オールラウンドプレーヤーの育成に凄く力を入れておられました。
その発想に近いと思います。それでは最後になりますが、経営者としての覚悟という面で、人を大事にする、幸せを巡らせるという社長の大事にしている部分についてお聞かせください。
並 河:もう本当に人が全てです。経営者が旗を振らなければいけないと思う一方、自分が正解を言っているわけではないという自覚があります。「それはただのお前の意見だろう」みたいな。それにみんなが従うというのは私には考えづらくて。
境 野:偉いですね。

並 河:それぞれみんな意見があって当たり前です。だから、私から強く言うということをやりたくないんです。あくまでも「こういうのがあるんじゃない?」 とか、「こういうことが世の中ではあるよ」ぐらいに留めたい。
境 野:要するに考えさせるということですよね。自発性のある社員を育てたいという想い。
並 河:はい。自分たちが行動するという会社に本当にしたい。362人が違って当たり前ですし、それぞれが意見を言って、自分のやりたいことをやっているという状態、やらされているんじゃなくてやっているという状態にしたいというのが究極の目標の一つです。
だから、それをやるためにも自分の幸せが大事だよと。ライフワークバランスって、もちろん大事だと思いますが、そのライフとワークを別に考えるのではなく、ワークもライフの一つでしょみたいな。
ワークインライフという発想で、ライフの中に仕事が三分の一ぐらい占めていますから、だったらその仕事も楽しくしようよと。
境 野:いいですね、素晴らしい考えだと思います。
並 河:これを目指していこうよというのは経営者が考えなければいけないと思いましたので、ビジョンは作りましたけど、基本的には各部の方針は各部に任せています。
営業本部は自分たちで営業方針を考えて作る。各本部に自律的な行動をしてもらう。経営は結果論ですから、自分が去ったあとにどういう社長だったと周りが言うだけの話かなとも思っています。
自分のやり方が正しいかどうか、正直なところ分かりません。しかし、リーダーシップというのは、上からモノを言うだけではないという強い気持ちがあります。私が居なくても自律的に動いていける組織、それを作り上げるのが、私のミッションだと思っています。
以 上

