
いつも会うと本当に楽しそうに話をしてくれる市川社長。
バイタリティーに溢れ、話題も豊富で時間も忘れて魅き込まれてしまう。
最初の出会いはジャパンガスエナジーであったが、転職先のイーレックスでもなんとお客様であり、親しくお付き合いさせて頂いてきた。
『境野さん、俺はね、まだまだLPガスにはたくさん可能性があると思ってるんだよね』-その口癖の通り、新たなことにチャレンジを続けてきた市川社長。
今回は、富士瓦斯の津田社長と立ち上げた「&LPG」、そして北信ガスの社員のモチベーションの高さについてお話をお伺いしたので、余すところなく、お伝えすることとする。
※以下、敬称略
【取材日:2026年7月13日】
『&LPG』の意義-後に続く人たちのために、何かを残さねばならない
境 野:だいぶ以前に&LPG のことでお伺いした時、私は市川さんから頂いた言葉がすごく強烈に残っています。
富士瓦斯の津田さんと語り合われた際、『我々もう50代後半になるけど、このまま逃げ切っていいのかと。 よくないだろうと。先代たちのように後に続く人たちに何か残さなければいけないのではないか』と。その辺のところからお聞きしたいと思います。
市 川:来年60歳になりますが、おそらく何もしなくても、この先10年間は食べていけると思います。ただどう考えても、需要も含めて明らかにLP ガスの市場自体、間違いなく縮んでいくのは、如何ともしがたい事実じゃないですか。
少子高齢化や人口減の流れには抗えない。その中で少なくとも、従業員の家族を全部合わせると、約200から300人ぐらいの人たちが縁あってウチに来てくれた。この人たちの生活を守らなければいけない。
そのためには我々の世代が何かしら未来に芽が出そうなものに今から手をつけておかないといけないと思います。
我々よりも上の先輩たちは、やはり種を蒔いてくれていたような気がします。そこを我々世代もやらなければいけない。
何をやるのか。エネルギー基本計画で地位は上がったといえども、電力業界や都市ガス業界に比べてまだまだ提案力を含めて力が弱いですよね。
政府とか国に働きかける力であったり、我々の業界の未来を研究する機関だったり。早く作っていかなければこの業界は衰退していくと思っています。
境 野:俗に言うロビー活動であったり、シンクタンクみたいなものですよね。そこを着手しないといけない、それが津田さんと話した中での重要な部分なんですね。
市 川:その通りです。津田さんから説かれました。そのためには、そこに賛同して頂けるような人たちをまず集めて、そういった活動にお金を投資できるような団体でないと駄目だと。
そこで津田さんが、例えばLPG白書みたいなものをぜひ作りたいと。少しでも我々の業界を世の中にも知ってもらいたい。
もう一つはカーボンニュートラルのLPGを研究するような開発に対してお金を使えるようなシンクタンク。そして、そういったものをバックアップする政治活動、ロビー活動みたいなものは必要だと。そこが達成できたら、&LPG は発展的解消でもいいとも思っています。
境 野:世の中においてLPガスの認知度はまだまだ低いと思っています。その向上も目指しているんですよね。
市 川:新卒の人でLPガス業界に入っていこうという人がまずいない。 LPガス業界自体を知らないんですよね。
だからまず「LPガス業界というものがこの世の中には存在するんだ」ということぐらいはきちんと周知していかなければいけない。そのために、&LPGでは「LPガス業界の総合ポータルサイト「ガスキャリ」みたいなものを作ったりしています。
とにかく種を蒔いていますが将来実らなければ、『津田と市川とかの&LPGは何をしていたんだ』と言って頂いて構いませんが、それは我々が死んでからでお願いしたいと笑。
境 野:いえいえ、まだまだこれからも頑張って頂かないと笑。
市 川:&LPGは『志』を大事にしています。趣旨に賛同できる人に集まって欲しい。あくまでも自分たちの意思で参加を決められて、意思のある人たちが集まって何かを起こせればいいかなと。
ただ、まだまだ認知はされていないかなと感じています。我々の力不足もあるし、まだ二の足を踏んでいる方もおられると思います。お金を集めているだけではないかと、ですから対外的に色々な試みを積極的にしているんです。
境 野:参加されている事業者は地方で頑張っておられる方が多いようにお見受けしています。
市 川:本当に皆さん元気あります。志は凄く高いと感じています。元売りさんや全国規模の大手さんも入ってきてくれています。もう私が広報では役不足かもしれませんね。

境 野:そんなことはないでしょう。ただ、『本当に何をやるの?』という方々は少なからずおられると思うんですよ。そんな中、私が一緒に仕事をしておりました、エネ庁・流通政策室長の甲元さんも呼ばれましたよね?エキスポに。
市 川:国もちゃんと見てくれているんだなというのは、心強さを感じました。津田さんやチェアマンである橘川先生のお力が大きい。業界のことをよく知っていて、外から見てくれている人というのが少ないんです。
橘川先生や境野さん、業界の表も裏もよく分かっていて客観的な目で見てくれる人を、もっと増やさなければいけないと思うんですよ。我々の業界はそういった人が少な過ぎる。
境 野:私もXを始めたきっかけ自体が、LPガスの認知度を向上させたいという思いだけだったんです、本当に。検索してみたら、 LPガスって全然出てこない。 だから自分が論陣を張れるなと思ったんです。そうしたらナフサでブレイクしてしまって笑。
市 川:「報道特集」をたまたま見ていて、「境野さん、グイグイ攻めているな」と笑。
境 野:ネットの世界の話になりましたので、そちらに話を向けようと思います。
市 川:世の中にLPガスの仕事について調べる総合サイトというものがないんですよ、実は。そこで働いている人というのがどんな内容の仕事をして働き方をしているのかを、これまた調べる術がない。
だから作ろうと。言い出しっぺは自分ですから、言い出したら作らなければいけなくなってしまって笑。我々の業界はボンベを肩に担いで運んでいるような業界という風に思っている人まだ多い。
これは伝えてこなかった我々の責任だと思っています。それをやるには&LPGが一番適している場所かなと思っていますし、偏ったものではなく、なるべく広く最大公約数を取れるようなサイトにしたいとは思っています。
境 野:&LPGで特筆すべきなのは、ビジネスコンテストだと思うんですよ、学生にLPガスを使ってのビジネスを考えさせるという企画です。あれはいいなと、個人的にも思っているところです。
市 川:前の年にビジコンに出て入賞した子が、翌年にインターンで元売りさんに来た。少なくともやった価値はあったなと。
参加してくれた学生はLPガスについて学んでくれましたし。実はこのビジコンへのエントリーは、毎年増えているんですよ。今年は高専の学校側からも問い合わせがあって、我々は是非参加くださいと。
境 野:市川さんも審査員として入っているんですか?
市 川:予選は橘川先生や津田さん、メインスポンサーのJGEさんに審査してもらい、本選は会場の投票だけで決めるんです。だから、私の予想が外れたりします。『ああ、こっちが優勝なんだ』とか笑。
境 野:若い世代に期待大、といったところでしょうか。
市 川:&LPGでも我々の次の世代の方たちへの期待が大きい。既に業界をリードしている優秀な人が多い。そういう方たちがいるので、まだ我々の業界の未来はそんなに暗くないのではないかと。この人たちに次に引っ張っていってもらえればと思っています。
商慣行是正はプラスの方がやはり多い。その中でどういうアプローチをしていくかが問われる
市 川:商慣行の是正はプラスマイナスはあるけれども、私は当初の頃と見方が変わってきていまして、プラスがやはり多いと思うに至っています。
結局、我々は自力では出来なかったわけです。そこは我々に責任がある。結局、法律になってしまったのは正直、内心悔しいところはあるけれども、決してこれは悪い方向に進んでいることではない。
ただ競争は厳しくなりますよね。でも、絶対に大手さんが有利で、地方の小さいところは駄目なのかと言えば、私はそうでもないと思います。希望はある。
境 野:私はあの最高裁の判決も、小さいところが生きる判決だと思っているんですね。大手は既存の貸付契約を変えるのは数千や万単位で現実的ではありませんが、小手なら契約を変えることもできます。
市 川:確かに貸付配管というのは最後の切り札だったという言い方をしている人もいますが、今のお客さんは自ら色々調べてシビアです。
日常使うエネルギーで、サービスに大きな違いが無ければ高いものと安いものがあればお客さんは安い方を使いますよ。
そこで配管で縛るということがもう無理ですから。 そこに対して我々はきちんと襟を正さざるを得ない状況になったわけです。
境 野:判決はある意味、業界の常識が世間の非常識であったことが再確認されたようなものでした。
市 川:改めていかなければいけないことは改めていかないといけない。では、今度はどういうアプローチをしていくか。
サービスとか情報とかをお客さんに提供するというのは、前よりも色々なパターンが出てくるかもしれない。
各会社が本当に頭を使わなかったら生き残れない時代になる。あるいは極論、経費をとことん切り詰めて金額を安くするとか。地方の小さいところも知恵で生き残る余地が出てきたと思うんです。
境 野:市場の受け止め方、肌感覚はどんな感じでしょうか。
市 川:今回、改正省令で市場は変わりました。 これはすごく実感しています。長野の地方でさえ、もう貸付というのは当たり前ではなくなりました。
特に大手住宅メーカーさんに関してはもう言わない。無償貸付を依頼してくるデベロッパーさんはいなくなりました。そこはすごく変わりました。
それぞれやりたくてやっていたわけではありませんから。やめる口実を得たという見方もあり、ある意味で業界が助かっている部分があるかもしれません。
境 野:オーナーさんとの向き合い方ですよね、先ほど言われておりましたように。
市 川:もう縛るものが無いので各会社の知恵の出しどころですよね。オーナーさんに向けては、無償貸与はもうないんだと。
では、何がオーナーさんにとってこの会社と付き合うメリットなのかということを、どういう形でオーナーさんに提案できるか。
これは各社の腕の見せ所だと思いますね。例えばオーナーさんにとって有益な情報を提供することなのか、それとも、もうちょっと違うサービスや機会をオーナーさんに提供することなのか、工夫が必要になりましたね。
究極の人材定着戦略は、社員の家族に訴えるインナーブランディング
境 野:次に人財育成に話を移したいと思います。私の話になりますが、契約先のガス会社の若手社員を対象にプレゼン研修というのをやっているんですね。
研修を10回、 20回とやってきた中で、 30代の人たちの声で多かったのが、もっと飲みに行きたいとか、社員の運動会や社員旅行をやりたいと。
実は彼らはSNSに没頭してスマホを相手にしているのではなくて、本当はコミュニケーションを欲しているんだなと。
なのに、我々がちょっと何か言うとパワハラだのセクハラだの言われるのが嫌で、腫れ物を触るように接してしまっている。
結果、それが放っておかれていると思って2、 3年で辞めてしまうと。 だから我々は、今まで失くしてきたものを、蘇らせましょうと。コミュニケーション思春期の時に彼らはコロナだったんですね。

市 川:分かる気がしますね。 私がつくづく思うのは、従業員の皆さんは何を望んでいるのか。また何が一番充実感があるのか。
給与を増やすことなのか、休みを増やすことなのか。という風に考えがちですが、実は人から認めてもらいたい。
特に身近な人に褒めてもらいたい、我々もそうじゃないですか。それも、誰に褒めてもらいたいのかというところなんです。実は家族からなんですよ。
奥さん、子供、両親から、「お父さん、いい仕事してるよね」と。「お父さん、いい会社に勤めてるよね」とか、「お父さん、頑張ってるよね」と言われることでのモチベーションは必ず爆上がりします。
例えば私が従業員に「さすが、大したもんだ」を10だとすると、奥さんに褒められると1,000ぐらいになるんですよ笑。
境 野:1,000になるんですね笑。それよく分かります。
市 川:これって実は私は今までやってきたかというとやってこなかった。何かと言ったら、会社のインナーブランディングの構築だと思っています。
随分昔ですが中部電力のCMでダムの上で冬に送電線を修繕しているシーンがあって、バックからはちょっと感動的な音楽が流れているんです。
「このコマーシャル、何の意味があるんだ?」 と思っていたんですよね。社会的貢献度が高いということを言っているのかなと思いましたが、よくよく考えたら、これを見た家族は、「お父さん、こんなに社会的に意義あることを頑張ってやっている会社に勤めているんだ」と。
境 野:そうですね、実は社外ではなく、社内向けのブランディングコマーシャルだった、と。
市 川:65周年の時、コロナの真っただ中で社員旅行にも行けなかった。かわりに何か従業員の皆さんに感謝を伝えたいと思ったんですよ。
10万円分の商品券を社員のご家族宛に送りました。そこに文章を添えたんですね。 「今年 65周年を迎えられたのも皆さんのおかげです」と。
それに合わせて、お父さんがどんな仕事をウチの会社でしているかが分かるイメージ動画を作りましたので、是非それを見てお父さんに感想を伝えてくださいと。
「正直、ガス会社って何をやっているのかわからなかったですけど、なんとなくお父さんが勤めている会社はすごくホワイトで、なんかいい会社っぽい」と。
「会社の人たちも皆さんいい人」と。「お父さん、社会的に意義のあるいい会社に勤めているかも」っていう感想が。
1年間、会社のイメージが爆上がりでした。1年間限定で笑。
従業員の皆さんの意識とか高揚感とかやる気を上げるのは、家族なんだなと思いました。自分の会社は何をやらなければならないかをまず伝えるのは、ある意味お客さんでもある従業員の家族に伝えることが一番最初にやる事なんだと思いました。
境 野:それ、めちゃくちゃいい話じゃないですか!
市 川:私の策略にハマったなと笑。ネットの世界って会社の大小はあまり関係ないんですよね。 極端に言うとトヨタと同じことを我々がやろうと思ったら出来てしまう。
特に生成 AI を使えば、思ったよりブランディングが低コストでできる。だから、こういう社員の家族に知ってもらう取組みは、みんなやればいいのにと思っています。
境 野:コミュニケーションというのは、確かに実はすごく大事。 やっぱり人間って誰しも認められたいんです。誰しも自分の存在意義というのは認めてもらいたくなるから。 無視されるのが一番辛いんですよね。
市 川:最初作った時は従業員から「社長、何を考えているんですか?」と言われましたが、もう誰もそんなことは言わなくなりました笑。
ドローンで会社の全体像を見せて、充填所で働いている人を夕日をバックに撮ったり、社員全員を登場させたり凄く効果があったと思っています。
入った人が辞めないようにするというのは、境野さんの言う通り、やはりコミュニケーションなんですよ。
境 野:今日は凄くいい話が聴けました。やはり、伸びている会社は、社員を大切にしているということがヒシヒシと伝わってきました。これからも北信ガスの躍進を見守らせて頂きたいと思います。有難うございました。


