
いつも気軽に対応頂き、話を聞きに行くと2時間はザラ。
勉強熱心で話が深く面白く、聞く私が夢中になってしまう、ジャパンガスエナジー時代からお付き合いの河原さん。
ご存命の時、たまに顔を覗かせていた父親であり会長に、敬意をもって接していた姿が今も記憶に残っている。
社長を父親から引き継いだ時は5万件だった直売件数は今や15万件、躍進を続ける河原実業。
話の中で感じるのが、徹底した実務家であり、数字への強いこだわり。
需要減退の中で、どうやって顧客を伸ばしてきたのか、しかもほとんどが直売顧客である。
その躍進の秘訣、いつかじっくりとお話を聞きたいと思っていたところ、対談企画を快く引き受けて頂いた。
※以下、敬称略
【取材日:2026年4月23日】
黒字倒産になりかけた社長就任時、その経験が今に活きている
境 野:河原さんにインタビューしたいと思った強い動機は、需要が減退する中で数字を伸ばしているところです。
創業者のお父さんの時に5万軒だったところを、河原さんが継いで今やもう15万軒、このことが私の中で強烈に印象に残っています。
父親から引き継いだものの、そのまま需要減に任せて停滞している会社も多い中で、伸ばされた原動力というのはどこにあるのでしょうか。
河 原:意欲が凄く強かったんだと思います。どうリスクを背負って経営するか、先代から引き継いでいる精神で、借金に対してのアレルギーがないんです。
借りたものを投資して、利息を払う以上に大きくする。それが商売の本質なんだと。長期的に見れば株式投資と考え方は同じです。得られるリターンで金利を払い、その金利以上にマージンを取る。
境 野:先代が亡くなられた時に弔問し、先代の著書を頂いて読ませて頂きました。
今の言葉が非常に腑に落ちるんですが、お父さんも先に投資ありきで、伸ばしていったというところが、ジェフベゾスに似ているなと思っています。
彼もアマゾン創設当初から、大型倉庫を赤字先行で建てていって、大丈夫なのかという世間の声を尻目に、今や世界有数の大企業に育て上げた。成功者の路線として似通っているという風に感じました。
それと印象に残っているのは、もう何年も前ですが、私と話している時にも銀行の方がひっきりなしに来られていましたね。あの時はまさに、リスクを取って借り入れを増やして伸ばしていったという時期でしたか。
河 原:今でもそうです。借入の額を増やしてはいないのですが、ちょうど私が社長になった時に、あのリーマンショックのちょっと前で、サブプライムローンで某都市銀行が苦しみまして。
分かりやすく言うと、貸し渋りをされたんです。その某都市銀行から年間16か20億くらい毎年調達していたのがゼロになりました。
境 野:そんなことがあったんですか。
河 原:はい。社長になったばかりの時、簡単に言うと黒字倒産になりかけました。
調達するのに非常に苦労して、銀行やコンサルタントから色々教えて頂きました。
銀行はどういう企業にどういう基準でお金を貸すか、いわゆるスコアリングのことを教えてもらって、こういうところに気をつけてくださいと。
この数字がAランクなら、世間がどう言っても銀行は金を出しますと、そういうことを教えてもらいました。
スコアリングを下回ると、 どんなに義理人情があっても、借りることはできても、凄く高い金利になってしまう。
父の時代は義理人情の時代でそんなことはありませんでしたが、我々の時代は竹中平蔵の時代からスコアリングになって、そこは大きく変わりました。
あとは当時、その某銀行が協調融資をしていましたので、担保をつけられないと。

ですので、担保なしで貸してくれる銀行をいっぱい集めて、何とか乗り切りました。今お付き合いしている銀行は、その時にお世話になりましたので切るわけにはいかない、そういう状況です。
境 野:社長になられたばかりの時に、大変な経験をされたんですね。
河 原:私が社長になって潰れたら、それは全部バカな息子になったからだと、こう世間は言いますから。偉大な父親で通っていますからね。
私はもう社長になったばかりのあの時は、必死にもう背筋がゾクゾクするような、本当に倒産するかもしれないという危機感というものをその時、今思えば運良く味合わせてもらったというところです。
だから色々苦しくても、あの時に自分は潰れなかったと、それに比べればどんなことでも大したものではないという、そこが多分、他の同世代の経営者と違うところだと思っています。
勉強欲というよりは危機感。トップが深く理解していなければ決断が遅れる
境 野:おっしゃる通りですね。やっぱりそこが河原さんの強さだと思います。
以前からお話ししている愛知県の日本ガスコムさんですが、そこも何度も独立した会社から嫌がらせを受け、債務不履行にもなりかけました。
それが今はもう、売上は100億を超え、経常利益10数億円という立派な会社になりました。
そこの西山会長もやはり河原さんと同じことを言われていて、「あの嫌がらせの経験があるから今があるんだ」と。同じ強さだと思います。
それと、いつも河原さんとお話ししていて、お世辞抜きで感じるのは、金融ショックの時のスコアリングのお話もそうですし、誰よりも勉強されているなと。
電気を事業として始める際も、電気新聞を取られて毎日読まれていたりですね。
河 原:そうですね。誰よりかどうかは分かりませんが、興味のあることには凄く深く入りしますね。
勉強欲というより危機感かもしれません。そこの部分に詳しくないと判断が遅れるということですかね。
様々な業務については部下と相談しながらやりますが、根本的なところのルールはやはり勉強してトップが理解してないといけない。決断が遅れてしまいますから。
中小企業が自分たちよりも大きいところとの競争の中で生きていくには、スピードしかありません。その基本だけは守り続けています。
あとは強いて言えば、大企業の真似をしないということでしょうか。大企業ができないことをやるというのが王道だと、それはもう肌で感じているところです。
それと、自分自身の価値観の判断基準を持てるかどうかじゃないですかね。人はこう言っているけど、それは違うよと。
リアルですね、現場から見た現実主義という言い方は変だけど、徹底的な現実理論。元々がそういう性格だと思います。
境 野:真実を追求するにはまず一次情報ですよね、大事なのは。
この業界に限らず、二次情報で話しをされる方が多い。某大手がこう言っているからこうだとか、どうもあの会社は誰々が言っている通りのようだとか。
それは原点に当たったのかなというのが多い中、やはり河原さんは原点に当たられる努力をされています。
河 原:自分で考えないと生き残れません。社長就任当時、黒字倒産スレスレの時、会社の内容を良くしなければ助からないと、自分の会社は自分で守ると。
自分自身が強くならないと、誰も守ってくれない。多分、ガスコムの会長さんも同じことを経験なさっているでしょう。
他人がどう言おうが、自分はこれでちゃんと収益を上げていかなきゃ、さっき言ったスコアリングに間に合わないと、それに行くにはこれがいいと。
投資を続けていくにはこういう風にやらないとみたいなことを、常に考えてやってきましたね。
数字を伸ばした原動力は工務店との提携、勝ち負けよりも会社の成長に拘りたい
境 野:ありがとうございます。次に伸ばしている原動力についてお聞きします。
具体的に数を伸ばしているのが戸建中心だとお伺いしていますが、どういうふうな戦略というか戦術で伸ばしてきたのか、差し支えない範囲でお願いします。
河 原:工務店さんとの提携ですね、基本は。
普通は大きな会社から営業するんですが、ウチの会社の特徴として、本当にみんな現場から飛び込んでいって、営業マンが全て開拓したお客さんで、そのいくつかが成長して上場までしました。私が銀行とかトップが知り合いだったとか、そういうのは一つもないんですよ。
境 野:そうなんですか、それは凄いですね。

河 原:とにかく現場主義で、1件ずつ本当にポンと飛び込んで、その営業マンが上に気に入られて、その人がどんどん上がっていって、その会社が成長して大きくなったとか、あるいはまあまあの会社が代替わりして凄く成長したとか、それでブレイクして上場までいったとか、そういった方々と今でもずっと付き合っています。
境 野:それは非常に興味深い話です。地元の小さな会社に社員さんが飛び込みで営業して一緒に育ってきたという感じですね。
その意味では、色んなことを言うライバル事業者がいる中で、やはり地域の発展に貢献してきていますよね。
それが信頼の後押しになって成長してきたという感じもします。戸建が伸びているのは今どうでしょう、戦略的にどちら方面に伸ばしている感じですか。
河 原:今はプロパンという市場でいうと、やはり群馬県でしょうか。あとは茨城、土浦とか水戸、あまり北には行きませんね、意外と。
群馬、神奈川ですかね、今の主戦場は。奥の方まで伸びているのは神奈川と群馬、群馬は高崎、前橋、その先はまだという感じでしょうか。
境 野:やっぱり市場としても有望なわけですね。
河 原:非常に有望ですね。群馬も神奈川も都市ガスがありますが、行き渡ってはいません。
境 野:今までのお話を聞いていますと、やはり社長の伸ばしたいという意欲が原動力になって、それに社員さんがついていって、地元の工務店と一緒になって成長してきて、なおかつ有望な市場をちゃんとターゲッティングして攻めている。非常に理想的な展開だと思います。
河 原:我々は調査していないのですが、ディベロッパーが「河原さん、こっちが伸びてるぞ」と教えてくれるんです。
「あそこはダメだ、建てても売れない」と。そうすると分かるじゃないですか、自然に。自分でも意外にハッと思いましたのが、茨城県の神栖市の例です。
人が少ないイメージがありましたが、ディベロッパーが「あそこはいいぞ、これから茨城は神栖市だよ」と。それで事業所を出しましたら、大きく伸びたんです、ガスが。
境 野:凄く面白い話です。要するに自分たちでは市場開拓できないところを、住宅メーカーが開拓して教えてくれると。
河 原:そうです。彼らが建てるのは売れるからであって、それは信用できるじゃないですか。
それに従って営業所を立てていく。工務店も大きくなってきて、せめて関東一円でやらないと仕事をもらえないと。
だから関東一円、なんとか営業所を出そうとやってきました。借金してでもリスクを取って拠点を広げようと。今は関東一円までほぼ完了しましたので、質の強化を図っているところです。
境 野:関東では勝ち組の一社だと、周りからも評価されています。
河 原:勝っているという感覚は持っていません。数が多くなってくると、新興勢力に獲った獲られたで勝てるわけないですよね。
そういう考え方でやっていると精神が参ってしまいます。だからそうではなく、会社としてそれでも成長しているかどうか。
ですから、成長しているからそれが勝っているということではないでしょうか。獲った獲られたで語るというのは、そういう発想自体がレベルが低いと思っています。
境 野:なるほど、あくまで成長に拘っておられるということですね。
河 原:はい。会社として成長しているかどうか、勝負じゃない、健全かどうかだと、社員にも言っています。
競争に勝ったという意識で調子に乗らないように一生懸命、諫めています。自分にも言い聞かせています。
「あの時を思い出せ、お前、倒産しそうだったじゃないか。勝負とか関係ない、今、成長できている、そこに自信を持て」と。
原点が人と比べないで、とにかく自分が健全に経営できるか、そして成長していれば、ある意味、少なくとも最低の責任は果たせる。
その中でさらにちょっと伸ばせればなおいいな、と。だから利益を出している会社は純粋に尊敬します。
ちゃんと立派に経営して、内容もよくて利益を出して伸びている。立派なことですと、よくその方たちと話す時にお伝えするんですが、それは本音なんですよ。
LPガスも都市ガスも電気も、総合エネルギー企業としての土台を作りたい
境 野:有難うございます。ではもう一つ、M&Aで顧客を増やしているガス会社もありますが、河原さんは多角化をせずにガス一本で伸ばしているイメージがあります。
河 原:さっき言ったスコアリング上、全方位戦略でやるとパンクします。やればいくらでもできたのでしょうが、借金が多く、在庫が多くなり過ぎてしまう。
今は昔と違うから、その背丈に合った投資を精一杯の範囲でやっているところです。
M&Aはそのあとに維持できるノウハウがない。買ったはいいけど、そのあとの管理は大変です。そのノウハウを今から積み上げるのは難しい。人材も一朝一夕には育ちません。
境 野:ではガス一本ですね。LPガスも凄く伸びていますけど、以前お聞きした話だと都市ガスも相当スイッチングで伸ばしていると。
河 原:そうですね。1万1,000件ぐらいですか。最初はインターネットでたくさん取れて、集合住宅を中心に広告も出し、報奨金も出していましたが、よその新しい新興勢力が出てくるとすぐ移動するんですね。
これはダメだと、今一生懸命、戸建てに切り替えて、なんとか全体の4割が戸建てになったところです。質を高めている感じですね。
ある程度の規模がないと事業として存続できませんので、まずは形振り構わず、まず最初にメーターを取って、その後に戸建も取りに行くノウハウを構築して、ちょっとずつ入れ替えているところですかね。

境 野:基本的には河原さんのLPガスのお客さんじゃないところで取っているわけですよね。その目的はどこにあるのでしょうか。
河 原:これは夢なんです。東京23区みたいな、都市ガスが当たり前のところでも食べていけるようになるかもしれない。
やっぱりそう、夢ですね。まだ残念ながらもっと大きくしないと黒字化にならないけれど、何とか広げて事業として大きくしたい。
それともう一つは、取られてばかりいたところから取るぞと、目先の儲け以上の価値がある。社員のモチベーションも上がっています。
あの大手の都市ガスからお客さんが取れるんだと。日本を代表するような強い相手に少しずつ市場を広げて、ちゃんと伸ばしているって面白いだろうと。そういう相手と俺たちは戦えているんだぞと。
だから私も、LPガスで儲かっているうちに、チャレンジして何とかモノにしていきたいと思っています。夢なんですよ、これは。
境 野:それではインタビューも最後になりますが、聞いてきたお話の集大成になりますが、河原さんとして、河原実業をどういう会社にしていきたいですか。
河 原:やはり、総合エネルギー会社ですね。今はもうLPWAも何とか3分の2ほどやって効率を上げてきています。
このおかしな競争もいつまでも続くとは思えませんから、真水の勝負になった時に、戦える会社として競争力をつけたいですね。
その土台を、今のうちにどんどん作っていきたいと思います。
以 上


