初めて日本ガスコムを訪れたのはイーレックス在籍時。6年前は3万件台であった直売顧客件数は今や7万件に迫る勢いを見せ、乗りに乗る日本ガスコムグループ。その時はまだ取締役であった西山さんに初めてお会いした時、「この人とは気が合いそう」との直感は見事に当たり、今では飲めば毎回3~4時間は様々な事を話し合う間柄に。
新規事業であるブルーベリーは改良に改良を重ねて通年栽培が可能となり、砂糖も使わずに糖度の高いそのジャムは幾度かマスコミにも取り上げられ、毎年収穫量、売上ともに右肩化上がりの状態が続いている。
ガスと同様な熱量を持って新規事業の開拓に突き進む西山さん。2025年7月に社長の座につき半年が経過。日本ガスコムを切り盛りする事になって多忙を極める中、ガスコムがどのようにして成長してきたのか、太陽光や農業といった多角化が成功している要因はどこにあるのか、ざっくばらんに聞いてみることにした。
※以下、敬称略

日本ガスコムグループが急成長した要因はやはり“人”にあった
境 野:私が西山さんにお会いしたのは、イーレックスに転職した時でした。あの頃は日本ガスコムグループの直売件数は3万件台でしたが、最近ではもう7万件に迫っているとお伺いしています。この需要減退の中で、伸びている原動力というのはどこにあるのでしょうか?
西 山:様々な営業手法というか獲得手法がある中で、弊社の場合は特に、日本ガスコム本体を中心として、社員の営業力が非常に上がってきているということは言えると思います。それこそイーレックスの電気とガスのセット割を使わせて頂いて、かなり数が伸びました。電気の件数の方もイーレックスの低圧小売りの中では突出して増えている方だと思います。今でも月に50から100件ぐらいは売っていますから。ですので、そういった合わせ技であったり、あるいはお客さんから紹介が紹介を呼ぶような形で着実に増やしていっているというところはあります。省令改正後に増加ペースが鈍っているというのは、どのガス会社もそうでしょうが、当社においてはファンがファンを着実に生んでいるというような状況がいま起きています。今回、弊社のガス展には2日間で5千人弱のお客様が見えたということも、日本ガスコムという会社の良いイメージを持って頂いている、そういうお客様が増えていることの証左かなという風に思っているところです。
境 野:まさに仰られる通りですね。私が前回ガス展をお訪ねした時は確か4千人ぐらいでしたからね。
西 山:そうですね、ガス展も「ガスコムフェスタ」という名前に変えて、お客様に浸透していっているというところですね。 もちろん持ち出しも多いのですが、年に一回ですし、お客様への感謝ということで、着実にいいイベントになってきています。今までは本社だけの管轄でやっていましたが、今年は新しく衣浦東部営業所もガスコムフェスタをやりましたし、新城の方もここ数年やっておりまして、そういった形で新しいエリアでも実施し、ファンを増やしていっている状況かというふうに思います。


境 野:ありがとうございます。本当に見ていて、正攻法でお客様を伸ばしているなという印象があります。以前イーレックス時代に若手社員の方々に研修をさせて頂いた時も、皆さん目がキラキラしていてとても前向きな印象を受けました。会長は「ウチは武闘派揃いだから」と仰っていましたが(笑)、皆さん前向きで元気がいいですよね。
西 山:境野さんの凄いプレゼンに奮い立って、また一層やる気になってやってくれましたし、そういった外からの刺激も適宜入れながら営業力を高めていっている状況です。今年も新卒を採りまして、本社管轄で直売の営業職が4名おり、そのうちの一人は女性なんです。その女性は凄く売れるんですよね、主婦層へのアプローチの仕方が上手くて。リフォーム案件とか、そういったものへの近しい提案ができるので、これからは女性が主力になる時代になっていくんだと思います。今まではガスというと、どうしても男性中心のイメージが多かったのですが、新規や新設も含めて、女性が活躍していってくれることを願いますし、女性の営業職も積極的にどんどん採用していきたいなと思っています。
境 野:今、ガス会社さんが一番悩んでいること、経営上の課題の一つが人手不足、非常に採用がしにくい、定着率が悪いという中で、御社は採用も上手くいっており、定着率も高いじゃないですか。その辺の工夫とか秘訣みたいなものを教えて頂けますか。
西 山:そうですね。我々が他のガス会社と違うところは、事業のポートフォリオが非常に豊富にあるというところだと思います。境野さんもご存知の通り、再生可能エネルギーに着手したのも早かったですし、そこに今でも積極的に投資を行っています。学生にそういう部分を見せるというのは非常に重要で、LPガスが創業の生業で基盤ではあるものの、それだけではないよと。そこで稼いだキャッシュを再生可能エネルギーであったり農業であったり、そういった新しい事業分野に投資しているというところを見せています。ワンキャリアというスカウト型の採用サイトがあるのですが、関心度のランキングで、誰もが知る一部の上場企業より上なんですよね。打ち出し方の工夫だと思っています。昔からの生業以外に新しいことに取り組んでいるということに、学生は非常に関心を持ってくれます。インターンシップでも、ガスの営業というプログラムと再生可能エネルギーの提案、マーケティングというような、学生が関心を持ちそうなキーワードを入れてウチの採用チームが作っています。そこから少しずつ志望度を上げていくというような取り組みがうまくいっているのかなと思います。
多角化の真骨頂-太陽光を中心とした新規事業の利益が今や本業に匹敵する規模に
境 野:ありがとうございます。ガス会社の中で多角化をされて、かなり早い段階から太陽光に着手されておられ、今はもう太陽光は50メガだそうですね。利益の半分を稼ぎ出しているということですが。
西 山:はい、今やガス事業に匹敵する利益を創出しています。ガス単体ではやはり経常利益を10%出すというのが難しい。以前はガスは粗利が凄く大きくて、利益率も非常に高かった。もちろん粗利は今も高いわけですが、販管費部分が膨らみすぎて、どの会社も最終的な利益が上手く出せない仕組みになってきました。我々は幸いなことに、早い段階で再生可能エネルギーに投資したので、そこでの利益率は高い。ですので、我々の経常利益率は10%程度なんですけれども、その程度の数字をコンスタントに出せるようになってきたのは、再生可能エネルギーの収益性の高さがあってというところだと思っています。
境 野:その太陽光をやろうというきっかけは何でしたか?
西 山:もともとこの豊橋、東三河のエリアは浜松もそうなんですが、昔ウナギを飼っていたのが荒れ地になり、使いようがないような土地が結構あふれていたんですよね。そこにメガソーラークラスの発電所建設ができたものですから、それを少しずつ増やしていったというところです。多くの事業者がFITの時代に投資し始めて、一番初めは40円台でしたけど、今はもう10円を切るような時代になりました。最近の政策でも、これはもう出ないよという風になってきている中で、我々はさらにそれをPPAという形で継続してやっているんですよね。ですので、まだまだ再生可能エネルギーには投資をしますし、それこそ系統用蓄電池であったり、系統用蓄電池と太陽光発電所を併設させるタイプのものであったり、色々なスキームをこれからも考えて、そこに投資していこうかなと考えています。



境 野:多角化になかなか踏み切れないガス会社もあります。その中で、やはり多角化をしやすい土壌というものがあったのではないでしょうか。
西 山:境野さんが以前おっしゃっていた石油会社時代の話があるじゃないですか。新規事業のプロジェクトチームで提案したけれど、本体の売上が何兆円と大き過ぎるから、最初から何十億ぐらいの売上でないと経営層が認めないと。そういう部分で言うと、我々の会社は売上規模ではなく、挑戦そのものをちゃんと評価してくれる会社でしたので、農業にしても始めやすかったというのはありますね。失敗しても挑戦そのものを後押ししてくれる土壌があって、だからこそ、ここまで太陽光事業を拡大することが出来ました。
境 野:そこがやはり凄いなと思うんですよね。他のガス会社が、ガスをずっと単体でやってきて、太陽光が出てきたらちょっと手を出してやめてしまったり、そんな状況も石油元売り時代に見てきました。ですが、やはり確信があったわけですよね、これは成功するんだと。
西 山:そうですね。 成功するかどうかという確信が100%あったわけではないと思います。ですが創業のメンバーが一旦やると決めて、結果的にそれが芽が出たというところかなと思っています。我々もメガソーラー一辺倒ではなくて、営農型であったり、PPAへの移行であったり、常に環境ビジネスのトレンドを捉えて、そこに投資してきたというところ、乱開発するような開発ではなくて、地域や環境に即した開発ができてきたというところがやはり大きいところかなと思います。
門外漢だった農業への進出、そしてブルーベリー栽培という異色の分野を開拓
境 野:お話して頂いたように、単に太陽光だけではなくて、営農型という太陽光を広めて、なおかつそこから農業ビジネスを展開されてきました。
西 山:我々にとって農業事業というのは完全に門外漢でしたので、初めは確かに苦労しました。営農型の発電所をやる時に、営農を他の農業法人に委託するという選択肢もありました。ですが、我々は農業を適当にやるということは考えておらず、農業でも何とか収支を出したいという考えを持っていましたので、アグリガスコムという農業法人を設立して本腰を入れて臨みました。そして今では東京ドーム10個以上の50ヘクタールの農地で発電をしながら農業もやっていると、そういう状況になっています。
境 野:色々なガス会社とお話ししている中で、多角化の方向性として農業というキーワードを出してくるところもありますが、難しいんですよね、かなり。私も田舎の本家が農家でしたから良く分かります。そういう難しさに対して様々な困難があったと思いますが、具体的にどういうところが難しかったですか?



西 山:トラクターを運転するのもそれなりのスキルがいるじゃないですか。そういった人材をどうやって集めていくか。要するにコアがない状態で核を作って、そこから人を集めて事業拡大していかないといけないので、そのコアとなる人間を、中学とか小学校時代の友人にまで頼って「農業を教えてくれ」と。アドバイザーという形で入ってもらって、少しずつ核が出てきたところに、愛知県に農業の短大みたいなところがありますが、そういう学生をリクルートしてきました。こういうちょっと近未来的な農業をやっているんだけど入らない?と。そういう活動を地道に続けてきた結果、お陰様で入社したいという学生が非常に増えてきました。
境 野:理想的ですよね。LPガスというコアのお金を生み出す事業分野があって、そこから太陽光に投資して、その太陽光が利益を生み出し、その利益で今また新たに農業を広げようとしている。
西 山:元々この営農型の太陽光発電というのは、農家のために作られた施策だと思っています。ただ農家の方というのはどうしても投資するところに難がありましたが、我々は法人としてそこに発電所をまず作って、その収益を農業の発展の方に回せています。国がイメージしている通りにやっただけなのですが、それが結果として非常にうまくいき、拡大を続けているというところですね。
境 野:その農業の中から、ブルーベリーが生まれてきたんですか?
西 山:そうですね。 農業法人のアグリガスコムには2つの柱があるのですが、先ほど言いました営農型のソーラーシェアリングとブルーベリーです。先進的な環境統合システムを使った植物工場でブルーベリーを通年で収穫できています。ブルーベリーというのは、本来夏にしか収穫できないものを、冬の時期も出荷できるようにしました。東京農工大学と産学連携し、その技術を我々が受けて商業実装化した植物工場なんですが、こちらも今年で5年目となり、今右肩上がりで収量も増えてきていますし、ブルーベリーの販売単価も通常の4倍から5倍ぐらいの値段で販売できている状況です。システム自体が非常に大型の投資でしたので、その償却を含めるとまだバランスはできていませんが、今のまま収量が右肩上がりの状況でいけば、収益化も見込める状況になってきました。農業参入した法人としては非常にうまくやっている部類かなというふうに思っています。



境 野:その通年栽培という工夫も凄いところです。いつもガス展に行くたびにブルーベリーのジャムを買わせて頂いて、ウチの嫁に全部食べられちゃうんですけど(笑)、彼女に言わせると「高くて当然よ」と。それは「砂糖を使ってなくて糖度が高いんだから当たり前よ」と言うわけです。それもやはり研究の中で生まれてきた成果なんですか?
西 山:そちらは加工ジャムメーカーとの巡り合わせが大きかったです。そこから「せっかくこんな糖度が高いブルーベリーをジャムにするのであれば、砂糖であったり、添加物を加えるのはもったいない」という申し出がありました。一つの瓶に大量のブルーベリーが必要なんですが、じゃあそれだけでやってみようということで、その結果、お陰様で大変な好評を得ることができました。これもいい人との巡り合わせというか、運が良かったというところもあります。ブルーベリーの事業の方も面白く展開していますし、先ほど触れましたリクルートでも、やはりこういった事業を行っているという事は学生に刺さりますので、数字に見えないところで会社のブランドをいいイメージで作り上げているのかなという風に思いますね。
今後の多角化の方向性-あくまでも拘るのは“エネルギー領域”
境 野:本当にそういう意味で、ガスがあり太陽光があり農業があり、そこからまたブルーベリーが発生したり、今後その多角化の中で西山社長が力を入れていきたいところはどんなものですか?系統用蓄電池という言葉が出ましたけれども。
西 山:そうですね。どこまでいっても弊社はやはりエネルギー会社ですので、例えばその縁もゆかりもないような飲食であったり、不動産ビジネスだったり、そちらの方には積極的な投資をしようとは全く考えてなくて、やはりエネルギーに関わるところを投資先として選んでいきたいと思っています。その一つが、先ほど申し上げました、発電所と蓄電池併設型のモデルであったり、あとは最近よく言われる炭素会計ですよね。ジェイクレジットであったり、再生可能エネルギーをうまく使ってやっていくところとかですね、市場がシュリンクしていく日本というマーケットの中でも、そういった可能性がある事業領域のところに投資をしていきたいなという風に考えています。

境 野:国内の人口が減少していき、ガスの使用量も単位使用量も減っていく中で、多角化の方向性がある。一方でその投資の方向性も、エネルギーというこだわりがあるわけですね。
西 山:我々も愛知県の山間部の方にガスのお客様を抱えておりますが、やはり少子高齢化の影響というのは著しく出ています。そういったエリアも含めて、少しずつ日本全体がそういうような状況になっていくと思うんですよね。そういった時に、今のガス事業だけの一本足では非常にリスクが高い。となると、やはり今のうちに次の核となる事業を新たに作っていくというのは、非常に重要な経営者の判断かなと思っています。我々ぐらいのサイズの企業ですと、色々なことに動きやすいですし、一本足からの多角化は大切な視点だと思います。そして多角化するにしても、何でもかんでも手を出すというわけではなくて、エネルギーに付随するところにフォーカスして投資していく-これは非常に重要な考えだと思っています。
境 野:会長が独立してこの日本ガスコムを作られて、その後を継いでいくというところでの、継承者としての重みというか、そういうものも感じておられると思います。
西 山:そうですね。創業して34年になりますが、債務超過が長かった時代を乗り越えて、今の創業のメンバーたちが相当苦労して、売上高140億というサイズまで規模を拡大してきました。それを引き継ぐということに関して、安易な形で引き継ぐということは全く考えていません。その重みを十分に責任感として感じながら次の世代に引き継がねばならないなというふうに思っていますので、そこは心してかかる必要があると思っています。

以 上


