二代目になり、急激に勢力範囲を拡げていた革破家。そこへ関東有数の大商人、序蒙(じょもう)氏が新兵器・鉄砲の納入を持ちかける。二代目当主は言った。「ワシならその新兵器、年内には万も仕入れられようぞ」-序蒙氏は気をよくして帰途に着いた。が、それからわずか十日も経たぬうちに、「白紙撤回」を示唆する書状が届く。
序蒙氏はすぐに革破家に早馬を飛ばし、二代目当主に面会を求めた。
「すまぬ、輪多が来たのだ・・」
-輪田とは、「獲怒(えぬ)家」家臣から下剋上で当主となった輪多出雲守のことである。凶悪な傭兵集団を駆使し、100万石から200万石へと大きく勢力を拡大させたのは、ひとえにこの男の力によるものだ。その輪多が単身、革破家を訪れたのだという。「輪多がこう言ったのだ・・」
「革破家殿、聞くところによれば御家は序蒙から鉄砲を仕入れなされるとのこと。実は、我々得怒家は阿須久家と同盟を組みましてな、当伝(とうでん)氏から共同で仕入れることになりましてのう・・。そうですか、革破家殿が序蒙から仕入れるとなりますと・・・」
「当家と阿須久家にて、革破家殿を挟撃する形になりますなあ・・あっはっはっは‼️」
二代目は当日を思い返すように目を怒らせながら語った。「ワシは負けぬ!武力なら当家と互角じゃ!しかしながら、相手は例えれば大筒を備える巨大な鉄の舟、当家はたかだか小早舟にすぎぬ。やつら獲怒家は大国なれど、傭兵どもの動きの速さは当家と同等じゃ。・・・悔しい、悔しいが分かってくれ!序蒙殿・・。単なる鉄砲の仕入れの問題ではなくなってしまった。生きるか死ぬかの話になってしまったのじゃ・・」
序蒙氏は諦めざるを得なかった。と同時に、輪多氏の政治力に舌を巻かざるを得なかった。単身乗り込んで革破家を「脅す」とは・・さすが下剋上でのし上がった人物だけのことはある。そしてさらに序蒙を驚愕させたのは、それから数カ月が過ぎて革破家二代目に会った時のことである。
「序蒙殿、あの輪多という男、なかなか人物でござってな?」
「ワシなどを城に呼んで上座に置き、数刻に亘ってもてなしてくれたのじゃ!」
・・・革破家は既に得怒家と同盟を結び、相互不可侵の間柄になっていた。得怒家・輪多出雲守、恐るべき男である・・